第2話

第2話「この子は普通の子じゃないんだわ、天才なんだわ」

WEB対談 「東村アキコ×山下昇平」

――では、初対面の先輩の印象はどんな感じでしたか? どういう先輩がいると思ったりとか。

山下:うーん、特に覚えてることはないかなあ。たぶん、美術部に入れるっていうだけで舞い上がってた気がします。

――緊張のあまりにそうなっていたとか?

山下:緊張していたのか、たんに敬語の使い方を知らなかったのかどうかはわからないですけど。かえって、そういうことを言われること自体が嬉しかったりして(笑)。

東村:なんか子どもなんですよね、昇平って。高校生って大人っぽい子はすでに大人っぽいじゃないですか。でも、昇平はまだ小学生の子みたいな感じなんですよ。例えば、「こういうふうに見られたい」とか、いわゆる“高校デビュー”とか、そういうのがなかったんですよ。そのあたりは今でもまったく変わらないと思うんですけど。 そういえば、昇平が入部してから、「子どもだな、この子」って思った決定的なことがありました。まあ、今も子どもみたいなもんですけどね(笑)。

東村:田舎の高校生って、土曜日とか日曜日なんかの休みの日に、「みんなでボーリングに行こう!」みたいなことになるんですよ。そして、「昇平も来ていいよ」っていうことになって。 そういうふうに休みのときに街へ遊びに行く時って、オシャレして行くんですよね。もちろん大したオシャレじゃないんですけど、ちょっと悪いことするみたいな感じというか、ちょっと大人っぽいことをするっていう気分で。わかります? まあ、ボーリングなんですけどね(笑)。 それで、当日、集合場所にこの子、Tシャツと麦わら帽子で虫取り網を持ってきたんですよ!

――ボーリングですよね!?

東村:そう(笑)。田舎の夏休み1日目の小学生みたいな格好で来て、「なんだ、こいつ!?」 みたいになって。

山下:覚えてますわ、それ(笑)。虫取り網持っていったら、みんな喜んでくれるかなって思って。

東村:ウッドストックでしたっけ、スヌーピーの上に乗ってる鳥のTシャツで来たんです。

――じゃあ、ウケを狙って行ったんですか?

山下:よく覚えてないんですけど、「持っていったらみんな喜ぶわー」って思ったんでしょうね。

東村:多分「虫がいたら捕ろう」みたいな感じだったと思うんですよね。「虫を捕ったら、先輩たちがみんな喜ぶだろう」っていう(笑)。それから、だんだん「こいつはちょっとおかしいな」って思い始めたんです。だから、説教することもやめました。しかも、ボーリングのお金も持ってきてないんですよ。“お金を持って歩く”という概念がないんです。

山下:当時、お小遣いってなかったもんなあ。

東村:「うち、お小遣いないんですよ」とか言って。「あんた、ボーリングでお金かかるし、みんなで今日はロッテリアに行くのに、ごはんどうすんのよ!」って言ったら、「あっ、大丈夫です。水でも飲んでますわー」みたいな。でも、やっぱりこっちは先輩だし、おごってあげるじゃないですか。

山下:かわいそうだなあ(笑)。

東村:しかも、「お小遣いがほしい」とも思ってなさそうだったよね。「うち、ないんだよ」みたいな感じで。そして、別の日に「カラオケボックス行こうよ」っていうことになったときも、昇平はまた虫取り網で現れて。

山下:また持っていったんでしたっけ、僕?

東村:そうだよ、また持ってきたよ。

山下:覚えてねえなあ。

東村:カラオケって、当時は100円を入れるシステムだったんですよね。

山下:あー、思い出してきた。

東村:それで、またお金を持たずに来てて。「昇平! またお金持ってきてないの!?」ってなって(笑)。「お母さんに『先輩たちとカラオケに行くけん、お小遣いちょうだい』って言いなさい!」とか言うんだけど、「うちはそういうシステムがないですから」って返すんです。まあ、そんな感じでカラオケに行くんですが、昇平も来るんですよね。それで、そのときに「こいつはすごいな」と思ったのが、私たちが100円入れて、聖子ちゃんとか工藤静香とかを歌っている中で、昇平が「次、僕歌いますわ」って言って、アカペラで中島みゆきの『悪女』を歌ったんですよ。

――(笑)。

山下:歌ってたなあ。

東村:1曲100円かかるところ、「俺はないから入れなくて大丈夫です」って感じで、お金も入れずに「次、僕歌いますわ! マリコの部屋へ~♪」って歌い始めて。そして、歌い切ったんですよ、アカペラで。。

――歌詞を覚えていたんですね。

東村:全部入ってるんですよね。

山下:中学校のときに、中島みゆきのテープを1本だけ、『予感』ってやつかな、あれだけしか聴いてなくて。

東村:漫画家ってみんなそうなんですけど、実はわりと“普通の感覚”を持った“普通の人”がなる職業なんですよね。漫画家っていうと「ぶっ飛んでる!」って思われがちなんですけど、実はどの先生もお会いするとすごいモラリストだし。どちらかっていうと、学校の先生みたいな人が多いですよね。社会性があるというか。アーティストじゃないんですよ、漫画家って。やっぱり商業的に売れるものを意図的に作り出していく人たちだから、すごく“普通の感覚”を持った道徳的な人が多いんです。私もぶっ飛んでるように思われるけど、わりと普通の高校生というか、まともな、常識的な子だったんですよね。

東村:(笑)。

――そこもだいぶ偏りが激しいですね(笑)。

山下:だから、歌詞とかは全部入ってます。

東村:今流行っているものに興味があったりとか、「今はみんなこれを聴いてるから聴こう」とか、そういうのがまったくない子だったんですよ。今思うと、すごくアーティスティックですよね。ただ、そのときは「こいつ、ヤベえヤツだな」って。「常識とかがないぶっ飛んだヤツだ」っていうのが前振りなんですけど(笑)。当然ですけど、やっぱり絵を描くでしょ、美術部で。絵を描いたときに、それを見てみんな、「あっ、この子は普通の子じゃないんだわ、天才なんだわ」と。「そっち系なんだわ、なるほどね」って思ったのをよく覚えてます。当時から、立体だろうが何だろうが、とんでもないすごい創作物を作っていました。いわゆるアーティスティックなことをしていましたね。あるときなんて、手にマジックでびっちり細かい模様を描き込んで。

山下:ああ、描いてました、描いてました。授業中ずっと描いてましたね。

東村:授業中に、手のここ(指先)からこのへん(ヒジ)ぐらいまで、幾何学模様というか、グチャグチャした内臓みたいな模様をびっちり描いて。それを職員室のコピー機で、ガー、ガーッて勝手に何枚もコピーして。真っ暗な中に、グチャーッて絵が描かれた手がぼんやり浮かんだものを嬉しそうに美術室に持ってくるんです。そういう子でしたね。 普通はそういうことって考えないじゃないですか。私は美術部の部長だったけど、私がしていたのは、花瓶に活けた花を油絵で描くとか、石膏像を描くとか、そんな感じでした。想像で何かを描くにしても、入道雲と海と虹を描くみたいな。私はそれをアートだと思ってるし、それをやりたいって思ってるのに、昇平はやることが全然違うんですよね。次元が違うというか。

――それは、いわゆる“美術好き”の文脈ではなかったということですか? 例えば、印象派が好きだったから、とかではなく。

東村:普通で言う“アート”じゃないんですよね。例えば、現代アートみたいなものって、あとでいっぱい流行るのを目にしましたけど、大まかに言えばそっちなのかなっていうのはぼんやりわかるんですけど、でも完全にそうではないというか。 高校を卒業してから、私は金沢美術工芸大学という大学に行きました。そこで、現代アートをやってる人たちにもいっぱい会うんですけど、現代アートをやってる人たちって、「俺って変わってるでしょ」みたいなアピールをするんですよね。「考えてることが普通じゃないんだよね」っていうようなところを一生懸命出そうとしていて。私はなんかわざとらしいなって思ってたんです。でも、昇平にはその「俺って変わってるでしょ」っていう意識とか、アピールとか、そういうのがないんですよね、子どもが思ったことをそのままやってる感じっていうか。

山下:そうだったのか(笑)。

東村:「なんでそんな変なことをやるの?」と言っても、キョトンとしてるっていう感じなんですよ。でも、その「俺、変わったことやってるでしょ」っていうところがないのも、また良し悪しだと思うんですよ。そういうところがないから、自分で自分のことをプロモーションできないんですよね。

山下:そうかもなあ。

東村:そうでしょ。そこが、アーティストとしてはちょっと問題。ゴッホにテオがいたみたいな感じで、誰かプロデューサーがついてそこを埋めて、「こいつおかしいんですよ!」って言う人がいなきゃダメなんですよ。それを「私がやろう」って思ってたんですけどね。でも私もなんか忙しくなっちゃって、今までなかなかできなかったんですけど、これからはやろうと思ってます(笑)。

山下:(笑)。

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聞き手:品川亮(映画監督)/小森和博(宣伝プロデューサー)
写真撮影:小笠原学
着付け:近江川葉月(キモノ葉月)

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