第1話

第1話「ダメな後輩とデキる先輩」

WEB対談 「東村アキコ×山下昇平」

――おふたりは宮崎県出身で、高校の先輩と後輩ということですが、どういう関係性なのか、まずはそのあたりからお聞かせください。

山下昇平(以下:山下):頭が上がらない先輩、ですね。

東村アキコ(以下:東村):もうちょっとハッキリ喋る。

山下:はい(笑)。僕が高校に入学して、美術部に入ったときの2年生の先輩でした。

――1年の差ということですか?

山下:1年ですね。

東村:1歳違いなんです。

――(山下さんの見た目は)全然上っていう感じですよね(笑)。そして、部活が一緒だった?

山下:はい。美術部のダメな後輩とデキる先輩という立場ですね(笑)。

東村:宮崎に宮崎西高校っていう県立高校がありまして、私も昇平もそこの卒業生なんです。美術部の仲間で、私が先輩で昇平はひとつ後輩という関係だったんですが、実は昇平のひとつ下には、さらにうちの弟もいて。うちの弟は、『となりの関くん』とかを描いている森繁拓真っていう漫画家なんですけど、私と昇平と拓真の3人が、同じ美術部に3年生、2年生、1年生という感じでいたんです。私にとって昇平は、毎日毎日一緒に過ごしていた姉弟みたいな感じの後輩ですね。

――美術部の部員は何人くらいいたんですか?

東村:部員はすごく多くて、20人くらいはいたと思うんですけど、いつも美術室に溜まっていたメインのメンバーというと、せいぜい10人以下くらいでした。

山下:7~8人ってところかな?

東村: そのメンバーは、本当に土・日・祝日も一緒にいるみたいな感じで。仲が良いというか、居心地が良くて、美術部にずっといるやつらっていうような。徹底的にみんな絵を描いてた感じの子達ですね。

――“本気”だった人たち?

東村:そうですね。サボっていたというよりも、美術室で本当に創作活動をしていた軍団みたいな感じ。

山下:昼休みも美術室に行ってましたもんね。

東村:お昼も美術室でお弁当を食べるっていう。ぴったり依存し合う関係。

山下:(笑)

――そういう場所があるというのはうらやましいですね。お互いに、最初に会った日のことを覚えていらっしゃいますか?

東村:覚えてます。めっちゃ覚えてます!!

山下:めっちゃひんしゅく買った記憶が……(笑)。

東村:漫画家ってみんなそうなんですけど、実はわりと“普通の感覚”を持った“普通の人”がなる職業なんですよね。漫画家っていうと「ぶっ飛んでる!」って思われがちなんですけど、実はどの先生もお会いするとすごいモラリストだし。どちらかっていうと、学校の先生みたいな人が多いですよね。社会性があるというか。アーティストじゃないんですよ、漫画家って。やっぱり商業的に売れるものを意図的に作り出していく人たちだから、すごく“普通の感覚”を持った道徳的な人が多いんです。私もぶっ飛んでるように思われるけど、わりと普通の高校生というか、まともな、常識的な子だったんですよね。

山下:(笑)

東村:活発ではありましたよ。でも、活発なだけの普通の女の子でした。

山下:そうか?(笑)

東村:そやろ! それで、そんな私が美術部に入ってワイワイやってて、2年生になったときに初めて後輩ができるわけじゃないですか。「美術部にどんな子が入ってくるんだろうね、楽しみだね」とか言ってて。そうしたら、丸坊主で飄々とした子が、なんかひょろひょろっと美術室に入ってきて、「あのー、入部したいんだけどー」って。タメ口なんですよ!

山下:(笑)。僕、部活動紹介とかがある前日にいきなり行きましたよね。

東村:あー、そうかもしれないね。フライングで。

山下:募集も何もしてないのに(笑)。

――本当に第1号という?

東村:はい。第1号で、昇平が「入りたいんだけど」みたいな感じで来て。「えっ? なんだろう、この子」みたいになって(笑)。美術部で私の代の2年生は結構活発で、わりと口が立つ気が強い系の女子だらけだったんです。宮崎の女の人ってそういうタイプが多いんですけどね。それで、その子たちが「入りたいって、あんた美術部に入りたいの?」って言って、昇平が「おう、入りたいんだけど」みたいな。「敬語を使う」という概念がなかったみたいですね。普通は中学生から先輩に対して使うでしょ、敬語。縦社会だから。なのに、めちゃめちゃタメ口で話してきて。本当に叱りましたし、最初は昇平のこと、本気で嫌いだったんですよ(笑)。

山下:叱られてましたよね、僕(笑)。

東村:「何、こいつ!」みたいになって。「なんでタメ口なの? バカじゃないの!」って。「こんな子に美術部に入ってほしくない!」って思ったのはすごく覚えてますね。

――いつ敬語を覚えたんですか?

山下:最初から敬語のつもりだったんですけどね。

東村:何言ってんの!

――(笑)。

東村:もう私たち、めちゃめちゃ怒りましたよ。フジタさんって女の子がいたんですけど、彼女なんてもう激ギレして、ものすごく説教して。でも、昇平は「ほぉ、ほぉ」みたいな感じで、全然ヘコまないんです。そうやって、私たちが本当に毎日キレてたら、だんだんと敬語を使うようになってきたのかな。今思うと、空気を読む能力も1パーセントくらいはあったのかなっていう気がしますけどね。

山下:ゼロではなかったですよね?

東村:ゼロではなかったね(笑)。

第2話へ続く

聞き手:品川亮(映画監督)/小森和博(宣伝プロデューサー)
写真撮影:小笠原学
着付け:近江川葉月(キモノ葉月)

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